にゃお提督の「公開」日誌

アクセスカウンタ

help リーダーに追加 RSS 「田母神論文」批評

<<   作成日時 : 2008/12/02 03:03   >>

面白い ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 0

9月下旬から2ヶ月ちょっとブランク。主として、前回記事執筆直後から著しい体調不良となり、公私とも事件が重なったこともあり、回復に10月一杯までかかったことがあります。その後も11月は週末ごとに行事が殺到、後半の三連休で風邪を引いたために10日間大乱調、やっと心身とも回復しつつある状況です。
んでもって、再開第1号の記事に選んだのは、世間を騒がせた田母神元空将の「論文」のこと。手続論は行政手続法の専門家にお任せするとして、ここで取り上げるならば…そう、内容を批評しておこうと思ったわけです。件の論文「日本は侵略国家であったのか」(以下、「田母神論文」と略す)は、アパグループのウェブサイトでダウンロードできますので、ひととおり目を通したあと、今度は赤ペンで要所にチェックを入れ、手元の資料等で事実関係を確認。そしてもう一度、じっくりと噛み締めるように読んで…。そう、米内大将や井上大将の読書法でもって、田母神論文を批評しようというわけです。

●全体の構成について…時系列が飛びまくり読みにくい
19世紀後半から1930年代に飛び、そこから1920年代へとバック、パリ講和会議、義和団事件からまたワープ繰り返し…。史実を振り返る場合は、時系列に沿って検証するのが普通ですから、こんな書き方をすれば読み手の時間軸がしっかりしていても読みにくい。流し読みの時点で、既に論理構成について心配になってきました。

●個々の記述についての検証
田母神論文の主題となった明治〜太平洋戦争敗戦までの約80年間については、私自身11年前に大学のゼミ論文で旧海軍の戦略論批評という切り口で取り上げ、統計資料や証言記録、戦略論、法規等を片っ端から調べ上げて執筆したのですが、圧縮しても本論部分だけで田母神論文の4倍以上のボリュームになったほどでした。参考文献ひとつとっても、統計に関しては『マクミラン世界歴史統計』など、当時の世界各地域の情勢を比較できるものを使い、また書籍資料については一次証言またはそれに類するものを芯に据えることとし、『海軍戦争検討会議記録』や『戦史叢書』各号を軸に、ノンフィクション作品の精度をチェック。さらに価値判断の基準となる戦略論についても、訳本ながらクラウセヴィッツ『戦争論』とリデル=ハート『戦略論』の考察を踏まえ、「将来の経済や外交への配慮」に秀でた後者の価値観を重視することにしたのですが、戦略論考察だけでも一万字オーバー…田母神論文の約2倍が必要でした。
当時…そして今も変わらぬ結論は、「満州へのこだわり自体が、経済的・戦略的に間違いだった」ということ。法学部の常として法規関係もチェックしましたけど、当時の国際法は既に現代と同じ方向、すなわち多国間条約の枠組みによる戦争防止・紛争処理を目指しており、国際法上も実は大いに問題があったのです。「国際紛争平和的処理条約」や「パリ不戦条約」、「ハーグ陸戦条約付属書」といった条約等について、当時日中とも当事国だったということもありますが、日本の大陸進出はこれらの国際法に抵触していたことをまず指摘しておきます。そのうえで検証しますと…。

  • 「日本軍のこれらの国に対する駐留も条約に基づいたものであること」(田母神論文1ページ)…あらぁ、いきなり事実誤認です。第一次大戦当時、「対華二十一箇条の要求」に怒った中国は、「国際紛争平和的処理条約」その他を根拠に、さまざまな外交ルートを通じ要求の撤回または骨抜きを狙い、結局は中国の思惑通りに決着しています。また、韓国併合までの対韓外交についても、日本の国防のためとはいえ、当時の情勢で見ても韓国の主権を奪うだけの正当性があったかは疑問です。

  • 「国際法上合法的に中国大陸に権益を得て」(田母神論文1ページ)…ポーツマス条約その他で権益を得たとは言うものの、領域主権の侵害が続いたことに変わりなし。でなきゃ、「五・四運動」の説明がつきませんわな。

  • 「日本軍に対し蒋介石国民党は頻繁にテロ行為を繰り返す」(田母神論文1ページ)…テロ行為は国家権力に正面から対抗する手段を持たない政治勢力、思想集団が主体であるのに対し、この場合は主権国家の政府による遊撃戦。しかもターゲットは侵攻してきた正規軍ですから、ゲリラ戦と呼ぶのが正解。蒋介石の戦争指導があまり巧妙でなかったことにもよりますが、正面から押せない中国軍は、「人民の海」を利してのゲリラ戦で辛抱強く抵抗したということ。同様のやり方はベトナム戦争などでもありましたよね。

  • 「これに対し日本政府は辛抱強く和平を追及」(田母神論文1ページ)…できてません。現地解決と決定しておきながら、現地で和平案が合意目前と思いきや中央から横槍、という無様な展開が繰り返された挙句、折角の和平交渉を潰したんですから。

  • 2ページ目冒頭に引用された近衛首相の演説〜「我が国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者」(2ページ)…この演説こそ、中国との和平を決定的に遠のかせた演説。証拠もどっさりありますので、「日本は被害者」と主張する田母神氏の説は間違い。演説の背景を全く勉強してませんね。

  • 「当時列強といわれる国の中で植民地の内地化を図ろうとした国は日本のみ」…ではありません。少なくとも、フランスはアルジェリア(ナポレオン三世の時代には太守国)に恩を仇で返すように植民地化したあと、大量の移民を背景に「海外県」の形で内地化しちゃってます。民族同化までやろうとしたのは日本だけですがね。*ナチスの「あれ」は「民族浄化」なので区別するように。

  • 2ページ目後半〜3ページ目前半にある満州・朝鮮半島の人口激増…これを肯定的に考えると、問題の本質を見失います。亜寒帯の満州では農作物の栽培があまりできず、殊に米作など困難。そこへ大量の難民が来て、日本からの開拓民に耕地を取られて、地元民が平穏であるはずがない。事実、治安は不安定だったそうですからね。状況は韓国でも似たようなものでした。経営状況が好転する見込みがないと判った時点で、満州・朝鮮半島からさっさと撤収すれば良かったのです。

  • 3ページ目後半〜4ページ目前半の記述…個々の事例は事実ですが、背景の考察なし。これらは民族同化政策の象徴と言うべき事象です。それに、侵略された側からすれば、いかに施しを受けたところで、恨みが消えるわけじゃない。韓国では「恨半万年」(恨みは五千年続く)という言葉があるほど、尊厳を傷つけられた際の恨みは半端じゃありません。日本国内でも、沖縄のように同化政策と戦乱が重なって、方言どころか琉球民族そのものの存在が失わされそうになった史実があります。

  • 4ページ目後半…英国は「セポイの乱」とボーア戦争で酷い目に遭ったので、以後民族文化に対する余計な介入は控えるようになりました。この反省のおかげか、ガンジーをして「二度と外国の植民地にはなりたくないが、どうしてもならなくてはならないなら、もう一度英国を選ぶ」と言わせしめるくらいには評価されています。付け加えると、インドの独立運動指導者や上流階級では、英国留学等の経験で教養を磨いた人物も多数。フランスのインドシナ半島経営やオランダのインドネシア経営は、お世辞にも褒められたものではありませんが、米国のフィリピン政策は太平洋戦争前に1946年独立というスケジュールが決まっており、ある程度受けは良かったと見るべきでしょう。

  • 「5族協和」(4ページ目)…元々の出典は、辛亥革命当時に孫文が唱えた「五族共和」、すなわち中国の主要五民族が力を合わせ共和制を築こうというスローガン。それをパクったこの表現は、満州国の建国精神を表す言葉ですが、実態は関東軍を中心とする日本陸軍による、陸軍あって国家なき無茶な軍政であったことは、先に述べたとおり。

  • 4ページ目後半の「パリ講和会議」関連…背景に移民問題があったのは確かですが、受入国にとっては自国民の雇用安定が優先されるべきところですから、どうしても移民制限を考えなければならない。それに、韓国において弾圧政策敷くを一方、人種差別撤廃条約を提言したところで、説得力に欠ける。英米は決して一笑に付したのではなく、国内事情もあって仕方なく反対していたという点は見逃してはなりません。

  • 4ページ目末尾〜5ページ目前半「対華二十一箇条の要求」関連…この問題は先に述べたとおり、日本側の高慢な姿勢に中国側が反撃しただけのこと。英仏の協力は、大筋で決着をみたあと中国側がなおしつこく噛み付いたとき、幣原喜重郎氏が礼儀正しく議長国に事情を説明して、議事をスムーズに進めてもらった程度のことでしょう。日本側の当初の言い分を認めたわけじゃありませんので悪しからず。*詳細は幣原自伝を参照のこと

  • 「北京の日本軍は…盧溝橋事件の時でさえ5600名にしかなっていない」(5ページ目)…支那派遣軍の北京駐留分は、ということ。事件から数日後に師団単位の増援が到着、さらに中央の横槍から事態はエスカレート。そして内地から3個師団の編入で、火力比較も考える戦力比は互角以上、もはや居留地防衛の規模ではなく全面対決の様相。これでも侵略ではないと言いうるのか?

  • 「幣原喜重郎外務大臣に象徴される対中融和外交こそが我が国の基本方針」(5ページ目)…いわゆる「幣原外交」をここで引き合いに出しても、協調外交路線を吹っ飛ばした行動を是認しているじゃありませんか。論理が合ってません。

  • 「アメリカによって慎重に仕掛けられた罠」(5ページ目)、5ページ目後半〜6ページ目前半のコミンテルン謀略説…多少は仕掛けたのでしょうが、軍部が自分たちの都合しか考えず、経済や財政をないがしろにした結果、自らジリ貧状態を生んで引っ掛かったのでは?海軍にしても、「大和」型4隻の建造を推進しなきゃ、戦争起こさずに済んだでしょうに、もったいない。謀略論を唱えて、自国の汚点から目を背けるなど、立派な武人のとるべき態度じゃありません。

  • 「フライングタイガースを派遣」(6ページ目後半)…戦闘機パイロットの大半は米陸軍航空軍(米空軍の前身)の士官でしたが、あくまで義勇兵部隊としての派遣。派遣時期は1941年11月でしたが、荷解きや再度の訓練など準備に忙しく、実戦参加は同年12月下旬のこと。フライングタイガースのアイディアは、先に戦争を仕掛けることがないよう、国際法の抜け道を勉強していた証拠です。むしろ、国際法の指導を伝統的に怠っていた日本陸軍と、この時期になって国際法の指導を放棄した日本海軍こそ、厳しく非難されるべきです。

  • 「結果として現在に生きる私たちは白人国家の植民地である日本で生活していた可能性が大である」(7ページ目)…1億人の人口と二千年以上の伝統を持ち、高水準の教育や徴兵制により潜在的に大量の動員兵力を有した当時の日本に対して、むしろ賢明な諸外国政府であれば植民地化困難と判断したことでしょう。仮にやったところで、アルジェリア以上に激しい独立戦争が生じる可能性さえあり、相当手を焼いたのでは?ポツダム宣言でも「最終的には日本国民の意思で政体を決定すべきである」との含みがあったわけですし。

  • 「人類の歴史の中で支配、被支配の関係は戦争によってのみ解決されてきた。強者が自ら譲歩することなどあり得ない。戦わない者は支配されることに甘んじなければならない」(7ページ目)…リデル=ハートはそんなこと言ってませんがね。多少対立があるとしても、戦争を避けてぼちぼちやっていく方が賢明だというのが、彼の主張。根底には孫子の兵法があるのです。経済や文化の叡智という間接アプローチによって、日本は今や世界の経済や文化の一翼を担っているではありませんか。それでもなお、戦争以外の決着方法がないとおっしゃるならば、それはクラウセヴィッツ兵学の陥穽に陥ることであり、また我々未来に生きる者たちに対する冒涜でもあります。

  • 「日露戦争、そして大東亜戦争を戦った日本の力によるものである」(7ページ目)…日露戦争での勝利は多少の希望にはなりましたけど、第二次大戦による旧宗主国の疲弊の方が、AA諸国が戦後独立できた理由としてむしろ主要なものでしょう。むしろ、東南アジア諸国の場合は、日本のせいで大迷惑被った挙句、独立までさらに長期間の苦闘を強いられているんですから、この説には根拠なし。

  • 「現在においてさえ一度決定された国際関係を覆すことは極めて困難である」(7ページ目)…じっくり腰をすえて変えた例は枚挙に暇がありませんけど…。

  • 「自衛隊は領域の警備もできない」(8ページ目)…少なくとも航空自衛隊には、平時からその権限あります。自衛隊法第84条に、「侵略の定義に関する国連決議」をセットすりゃ、領空侵犯したら即撃墜可能ですし、国籍不明機が警戒空域内でも自国の領域に対し攻撃してきたら撃墜可能でしょ。厳密には、定められた迎撃シーケンスにのっとるわけですが、その概要を公儀できちんと議論してもらったことがおありですか?自衛隊トップならば、むしろその辺の事情を研究し、国政の場で議論できるよう可能な限り情報を提供する責任があったはず。そのような本来の職務でなく、なぁんでこのような「駄文」に力を入れちゃったかな?

  • 「日米関係は必要なときに助け合う良好な親子関係のようなものであることが望ましい。子供がいつまでも親に頼りきっているような関係は改善の必要があると思われる」(8ページ目)…独立国同士なら「友人関係」でしょ?米国も日本に一目置いている面があるんですから、問題があるなら少しずつ改善すればよろしい。焦っちゃいけません。

  • 8ページ目後半〜9ページ目の「侵略国家とするのは濡れ衣」説…ここまで逐次批評をご覧になれば、田母神空将の説に根拠がないことはお判りでしょう。



というわけで、まとめ。
「かかる節穴のごとき観察眼を有する者は、即刻更迭するを要す」
(井上大将が軍務局長当時、後に大本営報道部第1課長となる平出英夫駐伊武官が送ってきたムッソリーニ礼賛の報告に対し、朱書きで書いた評価)

設定テーマ

関連テーマ 一覧

月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
面白い

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文

ごあいさつ

海軍好きで多趣味な「にゃお提督」の、一風変わったブログです。本家ホームページ「nyao君のRC格納庫」と連動してますので、併せてご覧ください。